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金沢大学理工学域フロンティア工学類生体機械工学研究室

細胞と遺伝子

私たちの聴覚が非常に鋭敏であるのは、耳の奥に存在する外有毛細胞(outer hair cell: OHC)が伸縮運動を行うことにより、耳に入ってきた音を飛躍的に増幅しているためです。このOHCの伸縮運動の駆動源は、OHC側壁に存在するタンパク質モーターであると考えられています。タンパク質モーターは、髪の毛の直径の1000分の1のサイズで伸縮する分子です。本研究室では、このタンパク質モーターの変形メカニズムを解明し、さらに、それを自在に操作し利用する分子技術の開発を目指しています。
外有毛細胞の伸縮運動は、その細胞膜に存在するタンパク質モータプレスチンに起因すると考えられています。しかしプレスチンの構造は不明です。
外有毛細胞の細胞側壁が直径10nm程度の粒子状構造物で覆われていることが示されており、これらの大部分がプレスチンであると考えられています。しかしそれら構造物のうちどれがプレスチンであるのかは不明です。
高温環境下での体温上昇(ヒートストレス)といった身体への刺激を強大音暴露の前に施すこと(コンディショニング)により、後の強大音暴露による外有毛細胞(OHC)の損傷が軽減され、聴力低下が抑制されることが報告されています。しかしそのメカニズムは不明です。

診断装置

本研究室では、機械及び聴覚の知識を活かした診断機器を開発することにより、医療への貢献を目指しています。外界から入ってきた音を、受容器のある内耳へと伝える役割を持つ中耳は、直接観察することが難しく、中耳病変の診断は困難とされてきました。そこで私たちは、中耳の動きやすさを計測することにより、病変の診断を非侵襲に行える装置の開発を行っています。また、この装置を新生児に適用し病変の早期発見に役立てることも目指しています。
新生児における聴覚疾患の発生割合は1,000人に約1~2人と言われており、聴覚疾患の早期発見及び治療は、言語能力の発達と知識の形成に大きく貢献します。現在新生児に対する聴覚スクリーニングには耳音響放射(OAE)もしくは自動聴性脳幹反応(AABR)によって調べられており、高精度で難聴を発見できます。しかしこれらの方法では伝音性や感音性といった難聴の種類の判別は困難です。

シミュレーション

実験では計測が困難である現象や、未知の現象を既知の現象から予測するにはシミュレーションによる解析が有効です。我々の聴覚システムは、外耳道から内耳の感覚細胞組織に至るまで極めてメカニカルかつナノメートルオーダーの振動挙動を示します。私たちは、聴覚の有限要素モデルを開発し、その動的挙動を解析することにより、音受容メカニズムの解明に取り組んでいます。また、この技術を応用し、音響性外傷や毒性薬剤、病変等による聴力低下がどのようなメカニズムで引き起こされるのかなどの臨床的課題に貢献することを目指しています。
哺乳類の内耳には外有毛細胞と呼ばれる感覚細胞が存在します。12,000個にもおよぶこの細胞は、内耳蝸牛において規則正しく三列に並んでいます。音が鼓膜を介して内耳へと伝わると、この三列の外有毛細胞が音信号に同期しながら協調運動することで、我々の聴覚感度を数千から数万倍に増幅しています。しかし外有毛細胞の協調運動がこの蝸牛増幅にどのように影響しているかは不明です。