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金沢大学理工学域フロンティア工学類生体機械工学研究室

蝸牛増幅には三列の外有毛細胞が必要である

Fig. 1. 本研究で開発した有限要素モデル。(a) コルチ器モデル。(b) コルチ器周囲の流体モデル(SV: 前庭階、ST: 鼓室階)。濃灰色はコルチ基部を示す。(c) OHC発生力と聴毛変位の関係。

Fig. 2. OHCの機能損失による基底板振動振幅の変化(入力音圧60 dB SPL)。(a) OHCが内側列から機能を失った場合。(b) OHCが外側列から機能を失った場合。三列のOHCの状態は、A (active)もしくはP (passive)で表記されている。

 内耳蝸牛における音信号の増幅(いわゆるcochlear amplification)は、外有毛細胞(outer hair cell: OHC)の膜電位変化に応じた協調運動によって実現されています。 この運動によって、基底板(basilar membrane: BM)の振動振幅が増幅されることで、我々の聴覚の高い感度、広い周波数帯域、鋭い周波数弁別が実現されています。しかしながら、OHCは騒音、耳毒性薬剤、加齢等に対して脆弱です。
 これまでの研究によって、強大な騒音に暴露されると、内側列(すなわち蝸牛軸に近い側)のOHCから外側列(すなわち蝸牛壁に近い側)に向かって機能を損失することが明らかとなってきました。一方で、耳毒性薬剤や加齢、虚血などの外傷性刺激では、OHCは外側列から内側列に向かって機能を失うと報告されています。しかしながら、OHCが一列、二列、三列と機能を失った場合に、蝸牛増幅がどのように変化するかは不明です。
 そこで本研究では、 我々が以前に開発した有限要素モデルをもとに、OHCの運動能を考慮した、スナネズミ蝸牛の有限要素モデルを構築しました(図1)。このモデルを使って、OHCの機能損失が蝸牛増幅機構の及ぼす影響を推定しました。
 その結果、内側列もしくは外側列のOHCが機能を失っただけで、BMの振動振幅は有意に減少することが明らかとなりました。また、内側列に比べ外側列のOHCのほうが振動振幅への影響が大きい可能性が示されました。これらの結果は、三列全てのOHCの協調運動が蝸牛増幅には必要不可欠であることが示唆されました(図2)。

 本研究は、東北文化学園大学(仙台) 和田 仁 教授との共同研究です。