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金沢大学理工学域フロンティア工学類生体機械工学研究室

ヒートストレスによる音響外傷性難聴からの聴覚保護メカニズム

Fig. 1. 原子間力顕微鏡によるマウス外有毛細胞のヤング率の計測。(a)計測の様子。(b)ヒートストレス前後における外有毛細胞のヤング率の変化。

Fig. 2. 共焦点顕微鏡によるマウス外有毛細胞の繊維状アクチンの観察。(a)外有毛細胞の細胞側壁における繊維状アクチンの蛍光染色画像。(b)ヒートストレス前後における外有毛細胞の繊維状アクチン量の変化。

 外有毛細胞(outer hair cell: OHC)による内耳増幅機構により我々の鋭敏な聴覚は実現されています。しかしこのOHCは再生不可能な細胞です。そのため、強大音暴露により一度破壊されると、この増幅機構が失われるために聴力低下が引き起こされ、二度と回復しません。
 近年、高温環境下での体温上昇(ヒートストレス)といった身体への刺激を強大音暴露の前に施すこと(コンディショニング)により、後の強大音暴露によるOHCの損傷を軽減し、聴力低下が抑制されることが報告されました。しかしそのメカニズムは不明です。
 我々は、コンディショニングによりOHCに加わるダメージが軽減するように細胞の剛性が変化した可能性があると考えました。そこで、ヒートストレスによるコンディショニングをマウスに施し、その前後におけるOHCの剛性および繊維状アクチン(filamentous actin: F-actin)の変化を、原子間力顕微鏡(atomic force microscope: AFM)および共焦点顕微鏡(confocal laser scanning microscope: CLSM)で計測しました。
 その結果、コンディショニングから3 - 12時間後にOHCのヤング率(図1)および繊維状アクチンの量(図2)は増加傾向を示しました。この硬化現象により強大音暴露時のOHCの歪みが減少し細胞破壊が抑制され、聴覚が強大音暴露から保護されている可能性があることを明らかにしました。