ヒートストレスによる音響外傷性難聴からの聴覚保護メカニズム
外有毛細胞(outer hair cell: OHC)による内耳増幅機構により我々の鋭敏な聴覚は実現されています。しかしこのOHCは再生不可能な細胞です。そのため、強大音暴露により一度破壊されると、この増幅機構が失われるために聴力低下が引き起こされ、二度と回復しません。
近年、高温環境下での体温上昇(ヒートストレス)といった身体への刺激を強大音暴露の前に施すこと(コンディショニング)により、後の強大音暴露によるOHCの損傷を軽減し、聴力低下が抑制されることが報告されました。しかしそのメカニズムは不明です。
我々は、コンディショニングによりOHCに加わるダメージが軽減するように細胞の剛性が変化した可能性があると考えました。そこで、ヒートストレスによるコンディショニングをマウスに施し、その前後におけるOHCの剛性および繊維状アクチン(filamentous actin: F-actin)の変化を、原子間力顕微鏡(atomic force microscope: AFM)および共焦点顕微鏡(confocal laser scanning microscope: CLSM)で計測しました。
その結果、コンディショニングから3 - 12時間後にOHCのヤング率(図1)および繊維状アクチンの量(図2)は増加傾向を示しました。この硬化現象により強大音暴露時のOHCの歪みが減少し細胞破壊が抑制され、聴覚が強大音暴露から保護されている可能性があることを明らかにしました。
- Kitsunai Y†, Yoshida N†, Murakoshi M†, Iida K, Kumano S, Kobayashi T, Wada H. Effects of heat stress on filamentous actin and prestin of outer hair cells in mice. Brain Res 1177: 47-58, 2007. †These authors contributed equally to this work.
- Murakoshi M, Yoshida N, Kitsunai Y, Iida K, Kumano S, Suzuki T, Kobayashi T, Wada H. Effects of heat stress on Young's modulus of outer hair cells in mice. Brain Res 1107: 121-130, 2006.
- Murakoshi M, Yoshida N, Iida K, Kumano S, Kobayashi T, Wada H. Local mechanical properties of mouse outer hair cells. atomic force microscopic study. Auris Nasus Larynx 33: 149-157, 2006.