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金沢大学理工学域フロンティア工学類生体機械工学研究室

新生児聴覚システムの動的挙動解析

Fig. 1. SFIメータによる計測模式図。SFIメータは計測制御用パソコン、AD/DAコンバータ、プローブシステム(※1)、ステッピングモータ、シリンジポンプ、圧力センサ及びリリーフバルブから構成されている。システムはLabViewで制御されている。

Fig. 2. SFIメータによる計測結果例。(a) 健常新生児。(b) 正常成人。新生児では、0.3 kHzと1.2 kHz付近で音圧(sound pressure level: SPL)の変化が確認された。成人においては、1.4 kHz付近でのみSPLの変化が確認された。

Fig. 3. SFIメータによる新生児外耳道ゲルモデルの計測結果例。新生児で計測された結果と同様に、1.0 kHz以下の低い周波数領域で SPLの変化が確認された。

 鼓膜及び耳小骨連鎖等により構成されている中耳は、内耳蝸牛への音の伝達を担っています。したがって、病変等による中耳疾患は、伝音難聴の原因となります。特に新生児期においては、言語発達や教育の遅れを引き起こす可能性があるため、疾患を早期かつ非侵襲に診断し、治療を行うことが必要です。これまでに我々は中耳の動特性を測定できる装置Sweep Frequency Impedance (SFI)メータを開発し、中耳の動特性から疾患を診断する方法を確立してきました。しかし新生児では計測が不可能でした。
 そこで本研究では、新生児に適用可能なSFIメータを開発し、その動特性計測を試みました(図1)。また、新生児外耳道ゲルモデルを作製し、外耳道の弾性がSFIテストの結果におよぼす影響を調べました。
 新生児においては、0.3 kHzと1.2 kHz付近で音圧(sound pressure level: SPL)の変化が確認されました(図2(a))。一方、成人においては、1.4 kHz付近でのみSPLの変化が確認されました(図2(b))。過去の我々の研究で、成人で計測される1.4 kHz付近のSPLの変化は中耳の共振を示すことが分かっており、新生児で計測された1.2 kHz付近のSPLの変化も、中耳の共振に由来すると考えられます。
 図3にアガロースゲル製新生児外耳道モデルにおけるSFIテストの結果を示します。新生児で計測された結果と同様に、0.5 kHz以下の低い周波数領域で SPLの変化が確認されました。この結果は最初のSPLの変化は外耳道が共振により振動したことに由来する可能性を示唆しています。本研究により、新生児と成人の聴覚システムの動特性は異なることが明らかとなりました。
 本計測は東北大学大学院医学系研究科倫理審査委員会及び仙台赤十字病院倫理審査委員会の承認を得て実施しました。
 本研究は、和田 仁 教授(東北大学名誉教授,東北文化学園大学名誉教授)、濱西 伸治 准教授(東北学院大学)およびJoseph Kei 准教授(クイーンズランド大学,ブリスベン、オーストラリア)との共同研究です。

(※1)SFIメータのプローブから外耳道に入力される音の例。