原子間力顕微鏡によるタンパク質モータプレスチンの観察
外有毛細胞(outer hair cell: OHC)の伸縮運動は、その細胞膜に存在するタンパク質モータプレスチンに起因すると考えられています。しかしプレスチンの構造は不明です。
本研究では、原子間力顕微鏡(atomic force microscope: AFM)を用いて、プレスチンの遺伝子を導入したチャイニーズハムスター卵巣(Chinese hamster ovary: CHO)細胞の細胞膜を観察することによりプレスチンの可視化を試みました。
図1にプレスチン導入CHO細胞およびCHO細胞の細胞膜のプレスチンの蛍光染色画像を示します。プレスチン導入CHO細胞においてプレスチンの発現が確認されました。図2にプレスチン導入CHO細胞およびCHO細胞のAFM画像を示します。いずれの細胞膜上にも粒子状構造物が確認されました。そこで、これら構造物の粒径解析を行いました。
プレスチンが球形であると仮定すると、分子量(約82 kDa)からその直径は約7 nm程度であると予測されます。また、これまでに電子顕微鏡を用いた観察によりOHCの細胞側壁が7-25 nmの粒子状構造物で覆われていることが報告されています。これらの報告に基づき、直径が100 nm未満、かつ長軸径に対する短軸径の比が0.5-1.0のものを粒子状構造物と定義しました。直径別に見た粒子状構造物の密度(図3)は、プレスチン発現CHO細胞において、直径8-10 nmおよび10-12 nmで、CHO細胞におけるそれに比べ有意に大きくなりました。両細胞の違いはプレスチンの有無に由来しており、プレスチン発現CHO細胞で観察されたこれら8-12 nmの直径を持つ構造物の75%がプレスチンであることが示唆されました。